神井くん 初めてのチュウ
 彼女を抱き締める腕に力を込めると、彼女がよろけて、一瞬目を開けて、また閉じた。
 キス、、していいかな。大丈夫かな。。さっきまで、彼女は早く帰りたそうだった。俺が送るって言ったら嫌そうな顔してた。でも、俺が笑ったら笑ってくれた。今だって、素直に目を閉じて待っててくれてる。やっぱり、したい。キスしたい。俺は彼女とキスがしたい。このまま大人しく帰るなんて無理だ。

「うーっ。」
俺は脳みそがオーバーヒートして、俯いてしまった。
「どうしたの?」
彼女は目を開けて、怪訝な顔で俺を見下ろした。
「いや、なんでもない。そのまま、ちょっと、、、その、待ってて。」
「大丈夫?」
「大丈夫だから、もう一回。目瞑って待ってて。」
「??はい。」

 彼女はまた目を閉じた。なんでこんなに素直なんだろう。分かってるのか、分かってないのか。すっげー微妙。でも、もう少し顎を上に上げてくれないと、やりにくい。やっぱり分かってないのかな。俺は彼女の前髪を手櫛で整えるふりをして、彼女の顔を上げさせた。今だ。やれっ。やってしまえっ。

 俺の分厚い唇が、彼女の可愛らしくて柔らかい唇に触れる。ほっぺたとかくちびるとか、全てがふにふにと柔らかくて、吐息は果物のような甘い香りがした。本当は唇の味を確かめたかったけど、そんな余裕はなかった。

 彼女はびっくりして、身を引いた。茫然と俺の顔を見ている。やっぱり分かってなかったのか。俺は急に照れくさくなって、急いで彼女の手から鞄を取り返し、傘を返した。そして自分の傘を広げて歩き出した。

< 11 / 14 >

この作品をシェア

pagetop