鬼社長のお気に入り!?
 教会の室内は特別にイルミネーションで飾られていて、美しいステンドグラスが一層際立って見えた。カーテン状のアイスクルライトがまるで夜空の星のように瞬いていて、大きなクリスマスツリーも光の粒をまとい、クリスマスの雰囲気を存分に醸し出していた。


「すごい……」
「室内への立ち入りは俺らだけにして欲しいっていうのが交換条件だった。だから誰も入って来ない、俺たちだけの空間だ。空間デザインも、イルミネーションデザインも本当は俺の専門外だったからずいぶん考えるのに時間がかかったぞ」


 これを見せるために八神さんは忙しい合間を縫って……嬉しい――。


 そう思うと、じんわりとしたものがこみ上げてきて目頭が熱くなってきた。嬉しくて嬉しくてたまらない。


「私、八神さんにお礼を言わなきゃいけないことがあるんです」


「なんだ?」


「今は桐生電機はなくなって、エレクトロンに変わりましたけど……美智から話しを聞きました。お金の面で援助してくれたって」


 そう言うと、八神さんは少し驚いた顔をして「余計なことを……」とボソリと呟いた。


「別に、お前のためじゃない。それに、あの会社にはもう恨みもなにもない。全て終わったことなんだ……お前が、終わらせてくれた。それに、お前にとってはゆかりのある場所でもあるし、知り合いもまだたくさん勤めてるんだろ?」


「はい……」


「そんな会社が潰れたなんていったら、お前だって夢見が悪いだろ、これから気持ちを入れ替えて頑張るって言ってるんだ、援助したのはせめてもの餞別みたいなものだ。それに……お前が言うように、桐生のしていたことを今まで知らなかった社員にはなんの罪もないしな」


 八神さんが私の頬に優しく触れる。ドキドキと心臓が波打って、私はみつめられるまま見つめ返した。
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