1人ぼっちと1匹オオカミ(上)

「おい、やめろ」

 突然、総長の男が制止をかける。

 そのおかげで蹴りは止んだけど、正直動けない。

 あちこち熱を持っていて、息が上がる。
 でも、一番痛いのは最初に総長に殴られた頬だ。まだ血が止まってない。

「…」

「あ、やめ…」

 声がかすれて出ない。
 抵抗もむなしく、フードをとられてしまう。その途端、周りの男たちが息を飲んだのが分かった。

 顔を…見られた…。

「こいつ、女だったのか」

「女なら、都合がいい。連れて行け。こいつにはたっぷり、役立ってもらう」

 ニヤリと笑みを浮かべた総長の顔は、私を恐怖に陥れるのに十分だった。

 あの時の恐怖が蘇る。何日も監禁されて、日付の感覚すら消えてしまったあの恐怖は私の中にしっかり根付いていて、勝手に流れ出した涙は止まることを知らない。


 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い…。



 誰か、助けてっ…!


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