1人ぼっちと1匹オオカミ(上)
信用
時々突然路地を走ったりしているうちに、男たちの声は聞こえなくなった。
それでもしばらく走り続け、気づけは随分家に近づいていることに気づく。
2駅分くらい走ったんだ…。
足を止めたのは、昼間に智希と望亜と遊びに来た公園。静かな公園に、私と少年の息の音だけが響く。
「ッはぁ…はぁ、怪我、大丈夫なのか」
「…あぁ、これくらい平気」
しゃべってから、気が付く。
変声機の電源落ちてたんだ。
だから、今の私の声は思いっきり女と分かるもの。
それでも、少年…神野くんは何も驚かなかった。
「…情報屋、だろ?」
「…がっかりした?あんなヘマやらかして」
「逆、心配した。あんた、女だし。あのまま連れてかれてたらやばかっただろ」
どうして、普通は落胆してもおかしくないはずなのに。
神野くんは、なんとか息を整えると、私に笑みを向けてきた。
その笑顔に少しだけ、胸の奥が苦しくなる。
どうして、笑えるんですか…?