1人ぼっちと1匹オオカミ(上)

「え?」

「だから、ボディーガード、してやるって言ってんだ。まぁ、俺もそんな強くないけど」

 だから、出来る限りでいいならと神野くんは手を差し出す。

 どうして、こんなに彼は優しいんですか。
 断られてもおかしくないのに。

 私はただ、神野くんを利用しようとしているだけなのに。

 神野くんはきっと、それが分かっている。
 分かっていて、この理不尽な要求を飲もうとしてくれている。

「…いいの?」

「いいって言ってる。それとも、不服?」

「違う。こんな理不尽なこと」

「あんたは俺を悪いようにはしない。確信があるから、俺はあんたに飼われる」

 なかなか差し出せない手を、神野くんが強引に引き寄せて掴んでくる。


 あったかい。
 お父さんやお母さんと同じ、あったかい…。


「…ありがと、連絡先教えて。私のも教える」

「ん。…あ、俺神野秋空。秋空って呼んでくんない?」

「…秋空…くん」

「くんいらねぇし。ま、いいや。そっちは?情報屋って呼びにくいんだけど」

「…ハル。ハルって呼んで」

「分かった。ハル、な?」

 咄嗟に苗字をとって、ハルって呼んでもらうことにしました。
 さすがに蓬はまずいです。

 その後、神野くんとアドレスと番号を交換して別れました。

 神野くんは嬉しかったのかずっと笑みを浮かべたままでした。
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