1人ぼっちと1匹オオカミ(上)

「蓬、何があった!?」

「…ごめんなさい。捕まりそうになって」

 お父さんは私のフードをとると、露わになった頬の殴られた跡に表情を歪める。

 お母さんも息を飲んで、智希も望亜もびっくりして声も出ない。

「怪我は?とりあえず着替えて…清牙、病院連れて行った方がいいんじゃない?」

「寝てれば治るから、大丈夫…」

「そんなわけあるか!桃、とりあえず連れて行くから後で連絡する」

 お父さんは怒ったように私を叱ると、抱き上げられてしまいました。

 ついてこようとする智希を家に残して、お父さんの車に乗せられる。

 すぐに病院に向かって走り出した車。お父さんは怒っていて、とても話しかける勇気はありません。

「…蓬、傷は頬だけじゃないな」

「…多分、体中に…」

「なんで助けを呼ばなかった」

「迷惑になると思って…」

 お父さんは赤信号でイラついたようにハンドルを殴る。

 その手は怒りで震えていて、思わずうつむいた。

「蓬、これからは絶対に連絡しろ。必ず助けに行く」

「…でも」

「でもじゃない!!取り返しがつかないことになったらどうするんだ!!」

 お父さんは私に怒っているんじゃない。

 分かってる。でも、怒った口調が、今の私には耐えきれなくて、勝手に泣きだしてしまう。
 お父さんはそれに気づいていたけれど、黙って運転を続けた。
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