1人ぼっちと1匹オオカミ(上)

 やがてついたのは市民病院。

 夜にやっているのが大きい病院だけということもあるけれど、ここには剣人さんがいる。

 あ、言い忘れてました。剣人さんはお医者さんなんです。

 車を止めたお父さんは、助手席から降りようとした私をまた抱き上げる。

「お父さん、私歩けます…」

「黙ってろ」

 有無を言わせないお父さんは結局私を抱きしめたまま、病院に入って行きます。
 救急の方に行くと、受付の人がボロボロな私の姿を見て驚く。

「斎王先生を呼んでくれませんか。この子の担当医なんです」

「は、はい!今すぐ」

 看護師さんは慌ただしく動き出す。

 他の救急で来た患者さんが席を譲ってくれても、お父さんは私を降ろそうとはしなかった。

 しばらくして数人の看護師さんをひきつれた剣人さんがやって来た。
 剣人さんも、私の姿に息を飲む。

「よも、どうしたんだよ。まさかまた…」

「剣人、とにかく手当てしてやってくれ」

「あぁ、こっちだ」
< 114 / 313 >

この作品をシェア

pagetop