1人ぼっちと1匹オオカミ(上)

 泣きそうになったのを堪えて、机に伏せます。
 神野くんに話しかけられて冷静でいる自信はありません。

「…晴野、お前…何でもない」

 話しかけてこようとしたものの、やっぱりやめたようです。

 話しかけてほしくないときはこうするのがいいかもしれないですね…。

 1限目の授業が始まる。
 でも、1週間も休んでいたせいでほとんどわかりません。
 教科書もだいぶ進んでしまっています。

 暇な時間教科書読んでおけばよかった…。

「…晴野」

「え?」

「わかんねぇんだろ?ノート後で貸してやるから」

 こそこそとした声で、神野くんは少しだけノートを見せてくれました。
 すこし見ただけでも、彼がきれいにノートをとっているのが分かる。

 そのノートは以前私があげたものです。

「今日は休んでろよ。きついんだろ」

 どうして、そんなに優しいんですか…?

 神野くんは少しだけ笑うと、正面を向いて黒板を真剣に写しています。

 今日だけ、神野くんに甘えてもいいのかな…。

「寝てろよ。昼になったら起こしてやる」

「…うん」

 今日だけ、彼の優しさに甘えます。

 素直に机に伏せると、先生は少し怪訝な表情をしたような気がしましたが、神野くんがこいつ病み上がりだからとフォローしてくれたおかげで堂々と寝ることが出来ました。
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