1人ぼっちと1匹オオカミ(上)

「…神野くん、ごめん」

「は?」

「朔夜さんもやめてください。昼間は話したくなかったんです」

「…」

 このままここでケンカが始まったら大変なことになります。

 みなさんに迷惑がかかるくらいなら、私が耐えればいいんだから…。

 朔夜さんは険しい表情を私に向ける。

「大丈夫です。中学の頃のようになったわけじゃありません」

「…本当だな」

「嘘ついてもしょうがないじゃないですか。休んでいたのは風邪を引いたからです。ご心配おかけしました」

「…今度は連絡切るんじゃねぇ」

 ため息とともに吐かれた言葉に頷くと、朔夜さんは嵐鬼の皆さんを連れて学校を出て行きました。
 もちろん、納得いかない顔をしていたのは分かっていましたが、これ以上ここで話すのはまずいと朔夜さんは判断してくれた。

 あーあ…、明日から怖いなぁ…。

「…晴野?」

「…ごめん、気分悪いから1人で帰るね」

 背後にいる神野くんにほとんど振り向かないで告げると、さっきのことを見ていた人たちの方へ歩きはじめる。

 怖い、でも、もうきっと逃げ続けられないなら。

 人をかき分けて門の外へ出る。背後からの視線は止まない。
 嵐鬼との関係は何だと聞きたいのに、動けない彼ら。明日には噂は広がって、私は空気になれなくなる。

 平然を装って帰路につく。
 頭には明日の学校の光景が浮かんで離れない。でも、やるしかないんだ。

 その日、早めにベッドに潜ったのに、一睡もできなかった…。
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