1人ぼっちと1匹オオカミ(上)

 最後は吐き捨てるようにして言うと、神野くんはすっきりしたのか自分の席から椅子を引っ張って来て、私の机の近くに座りました。

 私に向ける顔は、優しい笑顔です。

「晴野、昨日大丈夫だったか」

「え…う、うん」

「ならよかった。それより、ノート出せよ。昨日出来なかったからな。時間ないし早めにやろう」

 神野くんが自分のカバンから引っ張り出したのは授業ノートで、そんな神野くんに苦笑してしまいました。
 今さっきのことだって、神野くんは何事もなかったかのように振舞っています。

 とりあえず嫌いな社会のノートを出すと、それは後と机に押し込まれてしまいました。

「はじめに国語だな。晴野国語好きだろ」

「どうしてそれを…」

「見てりゃ分かる。晴野国語の時だけ先生に視線向けるもんな」

 ニヤッと笑った神野くんに言い返す言葉もありません。

 まぁ、国語の時間だけ先生を見るって言うのは、ただ単に国語が好きだからという理由だけではありませんが。

 でも、ノートを1週間分取っていないので、とにかくはじめは写せです。
 ものすごくきれいにとられたノートを拝借して、自分のノートに書き写します。
 その間、神野くんは肘をついて、じっと私を見つめてきていましたが、嫌な感じはしませんでした。
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