1人ぼっちと1匹オオカミ(上)
取り合えず調査のために駅に出なくてはならない。
…神野くんは来てくれるでしょうか。
変声機は…まぁ必要なしで。
情報屋としての携帯から神野くんのメモリを探し…とは言ってもメモリに入っているのは一部の情報提供者と神野くんだけなんですけどね。
出てくれるんでしょうか…。
少しドキドキしながら着信ボタンを押します。
2、3回目のコールで眠たそうな声が返ってきました。
『ん、誰…?』
「わ…は、ハルだ」
『は!?ハル!!?』
着信相手を見ていなかったんでしょうね。
電話の向こうから慌てて起き上がっているらしき音が聞こえてくる。
しばらくするとその音は止んで、どした?という冷静さを必死に繕った声が返ってきました。
「依頼が来たんだ」
『あぁ、場所どこ』
「××駅」
『分かった。30分後には行けるけど?』
「じゃあ時計塔の下で」
『分かった。…ハル、怪我は』
「平気だ。1か月休んだんだからな」
『あ~、なるほどね。まぁいいや。後でな』
少し経ってから、電話を切る音が聞こえてくる。
怒っていませんでした。むしろどこか安心した声です。
おそらく神野くんにとって情報屋は自分の育った家を助けた恩人。
だから、いくら私がそっけなく扱ったとしても、怒らないんだろうな。
やっぱりお人よしが過ぎます。