1人ぼっちと1匹オオカミ(上)
気づけばそんな言葉が口から出ていた。思わず口を覆うが、はっきりと神野くんには聞こえていて、目を見開いて私を見つめてきている。
「なんで、ハルが…」
「…悪い。…施設長がお前を心配している。それで、聞いた」
「…どこまで?」
「何も。ただ、たいようの家にいたことだけ」
私の言ったことに、神野くんは少し安心したように息を吐いた。
そんなに聞いてほしくないことなんですね…。
神野くんにとって、施設にいたことは辛いことなのかもしれない。
でも、あの写真の笑顔は無理に笑っている顔には思えませんでした。
なら、神野くんはどうして…。
「…ごめん。帰るわ」
「アキ…秋空くん?」
「…ハルには、知ってほしくない。俺の大事な奴にしか、教えたくないんだ」
ズキッと心の奥が傷んだ。その痛みは一瞬だったはずなのに、やけに響く。
なんで、今、傷ついたの…?
「…わかった。悪かったな」
「…じゃ、また」
神野くんは背を向けて去って行きました。その後ろ姿は寂しげで、今にも崩れてしまいそう。
…神野くんは一体なにを抱えているんですか。
どうして、そんなに寂しそうなんですか。
分からない。でも、知りたい…。
自分の中に生まれた感情がわからない。
でも、悲しいって思ったのは確かでした…。