1人ぼっちと1匹オオカミ(上)

「ねぇ、大丈夫?」

「あ…」

 輝星さんが他人を装いつつ、さりげなく朔夜さんの影に私を隠します。
 声を出したいのに声が出てくれません。

 どうしちゃったんでしょう。
 気づけば手だけではなく、体中が震えていて、そんな私を見た輝星さんと凪さんが表情を歪めています。

「なんだよ、あんたら晴野に手出すな!」

 神野くんの怒鳴り声に朔夜さんの表情が見る見るうちに険しくなっていく。
 無言のまま神野くんに近づく朔夜さん。

 やめて…神野くんのせいじゃない…。

 言いたい言葉は出て来なくて、ただ息をするのがつらくなっていく。

「…も…?…………て、よ……!!」

 声が遠い。朔夜さんは驚いてこちらを見ている。

 あぁ、ダメだ…苦しい…。

 暗くなっていく視界に、神野くんの愕然とした表情が見えて、それが最後。
 私の意識は真っ暗になった。

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