1人ぼっちと1匹オオカミ(上)

「はじめまして秋空くん。私はみんなから先生って呼ばれているけど、みんな私の大切な子どもなのよ」

 施設長は、やって来た俺を歓迎してくれたのに、当時の俺はニコリとも笑わなかった。

 それに、分からなかったんだと思う。
 先生なのに、親だというのが、意味が分からなかったんだと思う。

 だって、俺の親は、母は死んで、父は捕まった。
 あの人たちが両親だったから、あの人たちの子どもだったから、施設長はあくまで施設長だったんだ。

 施設に来てからも俺は笑う事も泣く事もなくずっと1人でぼんやりして過ごしていた。
 誰とも馴れ合わずに、ずっと1人ぼっち。

 そんな状況が変わったのは小学生に入ってから。
 同じ施設の子どもが目の前でいじめられたのを見てからだった。
< 163 / 313 >

この作品をシェア

pagetop