1人ぼっちと1匹オオカミ(上)

「おまえおやいないんだろ!」

「へんなの!なんでいないんだよ!」

「へんなことはあそんでやんね!」

 子どもだったから、そんなこと言えたのかもしれない。
 でも、その言葉は施設にいる俺たちにとって、当たり前で、どうしようもなくて、それなのに、なんで俺たちが責められないといけないのか分からなかった。

「…ッおまえらのほうがへんなのだ!!」

 自分に言われていたわけでもないのに、気づいたら手が出ていた。

 相手に怪我させて、自分も怪我して、それなのに、俺だけが施設長と一緒に謝らないといけなかった。

 施設に戻って、俺は初めて施設長に抱きしめられた。

「ありがとうね、秋空くん。みんなのために怒ってくれたんだよね」

 怒られなかった。むしろ、褒めてくれた。

 よくやったって、施設長は笑ってた。
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