1人ぼっちと1匹オオカミ(上)

 中学3年で、次の施設に行く準備をみんなでしている時だった。

 施設長が施設を閉じる通告の書類を持っていこうとしていた晩に、情報屋は俺たちの前に現れた。


「…何かあったんですか?」

「いえ、ここを閉めることになって…」

「…子どもがいるようですけど」

「あの子たちは別の施設に行くんです」

「…バラバラになるんですか?」

「そう、なるでしょうね」

 施設を出て行こうとする施設長は、闇に向かって話しかけてた。
 でも、よく見ればそこには黒いフードを被った人影があって、その人影はじっとこちらを見てきていた。

「…みんな、施設長のことが大好きなんですね」

「え?」

「顔見たらわかります。あの子たちの顔はあなたと離れることを恐れてる。だから、ここを閉じるなんてしちゃダメです」

「…私だって、閉じたくありません。子どもたちと一緒にいたいです。でも、もう私には…」

 施設長の言葉が不意に止んだ。
 目を凝らして見れば、人影が何かを差し出してきているのが見えた。
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