1人ぼっちと1匹オオカミ(上)
忘れたいもの
はっきりとは覚えていません。
でも、私はその日、たった1人で夜の街を歩いていました。
裸足のまま、秋の夜、薄いパジャマ姿のまま。
どうして歩いていたのか、どうしてそこにいたのか覚えていません。
でも、私はあの日、家を出てきたんです。
「…おい、どうしたんだ?」
眩しいライトの先。誰かが声をかけてくれた。
大きな音のするバイクから降りてきたのは高校生のお兄ちゃん…お父さんで、私は泣く事も笑う事もせずに見つめ返したそうです。
「お前、家は?どっから来た」
「…?」
「じゃあ、名前は?」
「…よもぎ」
「よもぎ?そっか、蓬って名前か。父ちゃんと母ちゃんは?」
「いないよ」
「え?」
「いないもん…」
お父さんとお母さんがいないと話した私にお父さんはとにかくびっくりしたそうです。
家が分からない。分かるのは下の名前だけ。
そんなに私にお父さんは手を差し出してくれました。