1人ぼっちと1匹オオカミ(上)

「俺は蓬の本当の父親じゃない。俺は、蓬が施設に送られそうになった時に無理矢理引き取ったんだ。今は養子縁組を済ませてはいるが、正式な手続きもせずに、俺は蓬を家に置いていたんだ」

「は?」

「だから、もし警察に事情を聞かれれば俺は無実ではいられない可能性がある」

 急な話に頭がついて行かない。

 晴野は、親父さんのことすごい尊敬して、大好きだって言ってた。
 なのに、なんで、そんなこと…。

「だから、もし、このまま家族でいられなくなってしまった時、蓬は1人になってしまう。もし、そうなってしまったら、蓬を助けてくれ」

「冗談、言わないでくださいよ…」

 笑って済まそうとした。
 なのに、親父さんは真剣な表情のまま…。

「…そんなこと、言わないでください。晴野は、あなたが父親であることを誇りに思っているんです!それに、あなたが捕まることなんてあるわけないじゃないですか!」

「…だと、いいんだけどね」

「え…」

 その表情はどこか覚悟したもので、悲しそうに瞳は揺らいでいる。
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