1人ぼっちと1匹オオカミ(上)
情報屋の言葉1つ1つを漏らさないように、聞き取りづらい声に神経を向ける。やがて、男の目からは涙が零れ落ちた。
「ッ…あぁ。よかった…」
男の娘は心臓移植を必要とする病気持ちだった。だが、ドナーが見つからず、途方に暮れていたのだ。
『取引は終わりだ。せっかく掴んだチャンス、無駄にするなよ』
感極まった男に対して告げられたのは冷静なひと言。
我に返った男は振り返る。だが、その柱の裏には誰もいなかった。
人々の喧騒が夜の静寂を打ち破る。