1人ぼっちと1匹オオカミ(上)
深いフードを被った情報屋は不意に立ち止まり、空を見上げる。
「…お腹すいたなぁ」
聞こえてきたのは少女の声。ため息をついた少女は再び歩き出す。
深くかぶったフードが風にあおられて、隠していた顔が月明りの下にさらされる。
漆黒の髪をなびかせ、大きな目は強い風を迷惑がるように細められる。自然に色づいた桃色の口元が歪む。
「最近の依頼無理難題多くなってきたなぁ」
誰に告げたわけでもない愚痴をこぼした口は、流れるように聞こえてきたバースデーソングによって、引きつったものになる。
「やばい!怒られちゃう!!」
急に走り出した少女に、街ゆく人は驚いて、不思議そうな目で少女を見送る。
少し大きめなパーカーを羽織って、月明りが照らす道を少女は駆け抜けて行った。