1人ぼっちと1匹オオカミ(上)

「よも、大丈夫?」

「うん。ありがとお母さん」

「あんまりしつこかったら、席変えてもらうなりしなさいね。無理しなくていいから」

 よしよしと頭を撫でてもらいます。
 やっぱりお母さんの手はあったかいです。

「ねーね、かえろ!」

「そうだね」

「ねぇね~」

「ともくん、交代できるね」

「うん!」

 今度はすんなり降りてくれました。
 さっきから一生懸命手を伸ばしてくれていた望亜を抱っこして、智希とは手を繋いで歩きます。

 お母さんは智希の反対の手を握って一緒に歩きます。

「よも、まだ行けてないんでしょ?」

「いったん帰ってから行きます。遭遇したらまずいですから」

「そうね。…よも」

「ん?」

「無理はしなくてもいいけど、さっきの子、悪い子には見えなかったよ?嵐鬼みたいにこっそ
り仲良しなら、出来るんじゃない?」

 お母さんのまさかの言葉にびっくりです。

 まさか神野くんと仲良くなるのですか。


 …確かに悪い人ではないと思います。
 でも、それでも、私はもう疲れちゃったんです。


 黙った私に、お母さんは苦笑を浮かべて忘れていいよと笑いました。私も苦笑を浮かべます。

< 66 / 313 >

この作品をシェア

pagetop