1人ぼっちと1匹オオカミ(上)

『今月分だ。受け取って欲しい』

「…情報屋さん、本当に何とお礼を申し上げていいのか」

『礼はいらないと言ったはずです。わ…俺はただ、お金の管理が上手く出来ないから』

「無理して作らなくてもいいですよ」

 施設長さんは私が女だと知っている。
 そりゃ、まだ変声機なんて持ってなかった頃からここに寄付しているのだから当然ですね。

 それに、施設長さんは私を自分の子どものようにかわいがってくれる。あったかい人です。

『…はぁ、このキャラは疲れます。あ、変声機いらないですね』

「ふふふ、それがいいですよ。フードも取ってもいいですよ」

「これまで取ったら私の素顔バレバレです。匿名希望者なので、これは外さないし、名前は一生お教えしません」

「残念です。あなたのおかげでここは立ち行きいっているようなものなのに」

 本当に残念そうにされている施設長さん。でも、絶対に顔は教えません。
 教えたら絶対晴野蓬を探し出してお礼を言いに来そうなので…。

 でも、施設長さんといると心が休まります。


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