1人ぼっちと1匹オオカミ(上)

 神野くんは険しい表情をしながらも、去ろうとはしません。

 私も、彼の次の言葉を待ってその場に留まる。日が落ちて行く。太陽が落ちれば、暗くなるのは本当にすぐだ。時期に、辺りは真っ暗になっていく。


「…俺は、諦めない。あんたに俺を認めさせる!」

 馬鹿にしたくなるようなセリフ。なのに、何も言い返せなかった。
 中二病発言かよって、言えなかった。
 バカにして、軽く流して立ち去る。それが出来なかった。

 神野くんの言葉は、重くて本当にそうしてやるんだって気持ちが痛いくらいに伝わって来た。


 こんなの、ずるいです。


『…やってみれば?』

 そう、言うしかないじゃないですか。

 神野くんは、途端に笑みを浮かべる。挑戦することに対して、わくわくしているような、キラキラした目。


 あぁ、ダメだ。私はこの人が苦手だ。

 影でこそこそする私にその目は眩し過ぎるんです…。


「絶対に認めさせるから。あんたに俺を信用させる。それで、あんたの素顔絶対見てやるから」

『…』

 もう、あなたは見たじゃないですか。
 家族と、嵐鬼と情報を提供してくれる一部の人にしか見せられない私の素顔を、あなたは見て顔を背けたじゃないですか。


 また顔を背けるの?私をまた否定するの?


 怖い…。この人は、怖い…。


< 74 / 313 >

この作品をシェア

pagetop