こえのおしごと!
「頼夏、今日お仕事?」
放課後、話しかけてきたのは小学生の頃から仲がいい斉藤美保(さいとうみほ)。
「うん。これから雑誌の撮影で…」
そう言うと、美保はひどく残念そうに「そっか…」と言った。
「ごめんね?レギュラーアニメの取材だから…」
「もう…頼夏は可愛いから人気出るってわかってたけど…遊べないのつまんない」
「うん。ごめん。それと、私可愛くなんてないよ」
「可愛いんですー!だからこんなに人気出ちゃって…。夏に写真集も出すんでしょ?」
「うん。誕生日なのと、中学最後だから」
そこそこ美保と会話を交わして学校を飛び出した。
バスを乗り継いで撮影現場まで走り込む。
「すみません!遅れましたか!?」
「頼夏ちゃん。いや、大丈夫だよ。まだメイク中だから」
そう聞かされた瞬間にメイク担当さんにメイク室に連行される。
今日は、私が憧れている方とのツーショットなのだ。
恋愛向けアニメーションのW主演。それだけで高まるのに、ツーショット取材なんて…!
高城信広(たかぎのぶひろ)さん。高校3年生の17歳。
ちなみに今の季節は春。まだ新学期になったばかりなのだ。
高城さんは子役時代から声優をされていて、大先輩というイメージが拭えない。
だけど、とても優しい人。
だから私は惹かれてしまったのだ。
高城さんに片想いをしているのか?と聞かれたら、答えは『YES』。
かっこよくて優しくて爽やかで。
Tiaraのみんなはもう知っている事実だった。
「頼夏ちゃん、今日はよろしくね」
はにかんだ笑顔でそう言われ、小さく「はい、よろしくお願いします」としか答えられなかった。
撮影では笑顔もきちんと作れたかわからない。
それだけ高城さんが隣に立っているという事実は緊張した。
一緒に取材を受けて、夕方も深いということで学生組の撮影は切り上げられた。
「頼夏ちゃん、一緒に帰らない?」
「え?」
高城さんにそう誘われて、間抜けな声が出る。
「ほら、もう暗いし、危ないじゃん?」
「え、あ、いいんですか?」
「中学生をひとりで帰らせるわけにいかないでしょうが」
そう言って頭をコツと突かれた。
きゅんとしたのは内緒だ。
「じゃあ…お願いします…」
「そういえばEVER PROってユニット組むらしいね」
EVER PROというのは私の所属事務所のことだ。
「はい。3人で。どんな風になるのか楽しみです」
「俺も」
「え?」
「俺も楽しみ。だからがんばれよ」
「は、はい!」
「じゃあ駅まで送ったし、あとは大丈夫だな?」
気づけばもう駅に着いていて。
「あ、はい。大丈夫です。」
「じゃ、また現場で」
そう言いながら手を振って去っていく高城さんを、見えなくなるまで見つめていた。
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