未来の1/fragment
だんだん近付いてくる丸林に、夏海は眉間に皺を寄せ、少し後ずさりをする。
「何?」
「いいや」
丸林は顔を上げ、夏海とすれ違い離れて行った。
屋上のフェンスに向かって歩き出し、寄り掛かかる。
「俺の家庭事情って、親父の事以外お前に話してなかったよな?」
「うん」
「父親からプレゼントなんか貰ったことないよ。ましてや、誕生日ケーキなんてまともに食ったのも何年振りだろうな…」
悲しげな表情を垣間見せた丸林を、夏海は見逃さなかった。
でも彼にどう気が効く言葉をかけてあげれば良いか思い浮かばなかった。
戸惑う夏海に気付いた丸林は、夏海を見て右手で頭を撫でた。
夏海は「えっ何⁉︎」と言いながら、ボサボサになった髪を必死に整える。
「坂尻の事だから、どうしようって悩んだだろ?気にすんな、これは俺の問題だから」
丸林は丸林なりに、他人に弱音を吐いた瞬間だったのかもしれない。
夏海はただ黙って頷き、丸林の隣に並んで屋上からの景色を眺めていた。