ホクロ
私は彼の誰にも媚びないところが好きだった。


しかし彼は誰の間にも一線を引いて、誰からも本当の自分を隠しているようにも見えた。


彼は誰が相手でも敬語で話し、人を呼ぶときは必ず苗字に敬称をつけた。


自分のことは「ボク」と呼んだ。


いつだったか、どうして片仮名で自分を「ボク」と呼ぶのか聞いたことがあった。


「僕」では「しもべ」に見えるし、「ぼく」では送り仮名やらと混同しそうで嫌だと言っていた。


自分でも少し気持ち悪いと思っているそうだが、そういうわけで自分のことは「ボク」と呼ぶ。


自戒のために決して「俺」は使わないのだとも言っていた。


誰にも本当の自分を見せない。


敬語と「ボク」という自称で本性を隠している。


私はそれらを取り払って、生身の彼を見たいと常に思っていた。


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