あの空を自由に飛べたなら




「俺、校庭で部活してる奴らを被写体にしようかと思ってるんだけどさ」

翌日の朝食の席で、信吾が言った。

「校庭で部活?」

「うん。よくさ、優菜が言ってるじゃん。"空は変化するから"って。だから俺も…変化するもの撮ろうと思って」

照れくさそうにそう言う信吾に、私は笑った。

「信吾も被写体、考えてたんだね」

「当たり前だろ?部長に決めろって言われたし、碧にまでバカにされたんだからな」

「信吾らしいね」

信吾がクスッと笑って、「空、学校のいろんな場所から撮ってみろよ。たぶん、今までより大きく写るよ」と言った。

「うんっ」

そう言って笑いあったら、お母さんに「遅刻するわよ」と言われてしまった。

お母さんにも、たくさん心配をかけた。

学校に行けなくなったときも、行く決意をしたときも。

だけど家族だから。

全部わかってくれた。

「父さん、このカメラ借りてもいい?部活で持参しなきゃいけなくて…」

「お?あぁ、構わないよ。ふたりとも写真部か。がんばりなさい」

お父さんの優しい声に、「うん」と言って頷く。

今日は碧ちゃんは日直で早く学校に行かなければならないと言っていたから、信吾とふたりで登校する。

「信吾、碧ちゃんのことどう思う…?」

碧ちゃんの恋の行方が気になって質問してみる。

信吾の肩がピクリと揺れた。

「ど、どうって…碧は優菜の友達だろ」

「でも私と碧ちゃんが友達になる前から…信吾と碧ちゃんは友達だったよね?」

「まぁ…そうだけど」

バツが悪そうにそう言った信吾を、空と一緒に撮影する。

「ちょっ…!優菜、撮るなら撮るって一言言ってよ。びっくりするじゃん」

「えへへ…。ごめん。朝の空と、赤くなってる信吾の顔が似合ってたから、つい」

「赤くなってないよっ!」

そう言って、少し歩幅を広げる信吾。

ついて行けなくなり、「信吾、待ってよ」と言いながら必死で小走りする。

もしかすると、信吾も碧ちゃんのことが好きなのかもしれない。

そう思った朝。




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