あの空を自由に飛べたなら
放課後、部室に急ぐ。
最近は碧ちゃんや信吾がいなくてもひとりで部室に行けるようになった。
この日は碧ちゃんが掃除当番で、信吾とふたりで顔を出すのもなんだか恥ずかしかったからひとりで部室に向かった。
扉を開けると、数人の写真部員。
「優菜ちゃん。今日はひとり?」
窓際で空を撮影していた遥先輩が、振り返ってそう声をかけてくれた。
「はい。あ、あの、お話いいですか?」
そう言うと、遥先輩はあのふんわりとした笑顔で「構わないよ」と言った。
ふたりで屋上へ向かう。
もう、屋上での撮影が日常になってきている。
遥先輩がそこにいて、屋上で空を撮る。
それが私の放課後の日常。
屋上に着いた途端、遥先輩は言った。
「高校、決まった?」
「あ、はい。そのお話がしたくて…」
そう言って一枚のパンフレットを手渡す。
「高城高校か…。うん。いいんじゃないかな。このパンフレットに載っている空も綺麗だ。僕は先に行って待ってるよ」
「私…勉強しなきゃいけないですね」
「高城は学力はそこそこのレベルだから、そう難しくはないと思うよ。不安なら勉強見てあげようか?」
それを聞いて、『この人は本気で学年違いなのに同じ高校に行こうとしているのだ』と改めて思った。
遥先輩が私のことをどう思っているのかはわからない。
だけれど、嫌われていないことだけは確かだった。
.