あの空を自由に飛べたなら




「あ、今日もいた!」

次の日、佐久間さんはまた同じ公園に現れた。

「佐久間さん…」

「今日は曇ってるでしょ?曇りの日は撮影しないのかなーとか、勘繰りながら寄ってみたんだ」

変わらない笑顔が、キラキラ眩しい。

道を踏み外していない佐久間さんの笑顔は、素敵だった。

私は、笑うことですら苦手になってしまっていた。

硬直しながら、「曇りでも、雲の変化が好きだから…」と答えた。

「ねぇ、本間さん。優菜って呼んでもいいかな?」

「え…」

突然の申し出に言葉が詰まる。

「私、本間さんと仲良くなりたいんだよね。学校に来いとか言ってるんじゃないよ?本間さんがいい子だってこと、私知ってるから」

その言葉に驚く。

「どう…して?」

そう聞くと、佐久間さんは少し気まずそうな表情を作った。

「1年生のとき、同じクラスだったの覚えてる?」

「それは…もちろん」

だって、佐久間さんは成績優秀者で、スポーツも得意で、性格もよくて美人ときている。

完璧少女だ。

覚えていないほうがおかしいだろう。

「本間さん、1学期に飼育委員に選ばれて、クラスで飼ってた金魚、毎日世話してたでしょ?優しい子なんだなぁって思ってたの」

佐久間さんにそう言われて、見られていた事実を初めて知った。

確かに不登校になる直前まで、私は飼育委員として金魚の世話をしていた。

クラスのみんなは飼っていることすら忘れてしまったかのように見向きもしなかったけれど、私は、飼育委員だったから。

愛着もあった。

だけど、不登校になってしまって、あの子がどうなったのかはわからない。

「チャッピー、元気?」

「チャッピー?」

「金魚の…名前…」

「あぁ、あの子は私が世話してるよ。チャッピーって名前だったんだ」

そう言って、佐久間さんは笑った。

私も、表情は堅かったかもしれないが、笑った。

「私のことは碧って呼んで?優菜って呼びたいから、対等になりたいの」

そう、真っ直ぐな視線で言われて、コクンと頷く。

「昨日、LINE入れたんだけど…」

そうだ。結局、『遊んでみたい』と言ってくれた佐久間さん…碧ちゃんのLINEは既読スルーで、返事を返せていなかったのだ。

「ご、ごめんなさい!既読スルーするつもりは…なくて!…で、でも…私なんかと遊んでも楽しくないだろうなとか…いろいろ考えてたら返せなくて…」

そこまで早口でまくし立てると、碧ちゃんはクスッと笑って、「私、優菜と友達になりたいんだよね。楽しくないとか、自分で決めちゃわないでよ」と毅然として言った。

「碧…ちゃん、と私、友達になれる…かな…」

「なれるよ!」

満面の笑みで断言され、私も今度は自分でもわかるほど柔らかな笑みで返した。

私たちの友情物語は、ここから始まる。





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