あの空を自由に飛べたなら




「優菜。大丈夫?行けるか?」

玄関で靴を履きながら、信吾が聞いてくる。

少し、吐き気がする。

緊張する。

1年も足を運んでいなかったのだ。

みんなにどう思われるのだろう。

変な目で見られないだろうか。

こわい…。

信吾の質問には、答えられなかった。

それでも信吾はわかってくれているようで、軽く私の頭を撫でてくれた。

その瞬間。

《ピンポーン》

と呼び鈴が鳴る。

朝に呼び鈴が鳴るなんて珍しい。

そう思っていると、信吾が玄関を開ける。

「あれ?碧?」

「え…?」

信吾のその声に顔を上げると、玄関先に碧ちゃんが立っていた。

「心配だから、私も一緒に行く」

「碧ちゃん…ありがとう」

碧ちゃんが迎えに来てくれたこと、本当に嬉しかった。



教室に入れば、やはり視線は避けられなかった。

ヒソヒソと私に向けられた声も聞こえる。

だけれど、もう逃げないと決めたから。

誰も声はかけてこなかった。

私も声をかけなかった。

というより、かけ方がわからなかった。

みんなは私のことをどう思っているのだろう…。

ヒソヒソ話の向こうが気になるけれど、知りたくなかった。

担任の教師には、一言『来てくれてありがとう』と言われたけれど、何かを感じとる余裕なんてなかった。

お昼休み。碧ちゃんがやって来た。

「優菜!大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ。放課後は…写真部に行きたいから…がんばる」

「そんなにいきなりがんばって大丈夫…?」

「みんなは当然のようにしてることだよ。大丈夫」

そう言うと碧ちゃんは、「みんなと同じがいいの?」と聞いてきた。

「同じがいい…。もうみんなと違うのなんて嫌…」

声が震えていたかもしれない。

「わかった。私も写真部行くから。心配だから」

その言葉に驚く。

「碧ちゃんも写真部入るの?」

「入る。私は写真…あまり撮らないかもしれないけど、心配だから」

そう言われて、少し困る。

「信吾も…そう言ってるんだよね…」

「………え?」

「私が心配だから写真部に入部するって…。ちょうど帰宅部だからって…」

「私も…同じ考えなんだけど…」

信吾のことを伝えると、碧ちゃんも困った表情を見せた。

「まぁ、信吾は関係ないよ。私は優菜が心配だから入部するんだし」

そう言って微笑んだ碧ちゃんに、私も微笑みで返した。




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