あの空を自由に飛べたなら
入部





放課後、碧ちゃんと信吾と3人で、部室棟に向かう。

「なんで碧も一緒なんだよ…」

「それは信吾と同じ理由」

「俺は双子の姉の心配だけど、碧はただの友達じゃん」

「信吾ってシスコンだよね」

「うるせ」

そんな会話を聞きながら、1年ぶりの学校をきょろきょろと眺める。

1年前と何も変わっていない。

懐かしさを感じた。

部室棟の中に、『写真部』と記された教室を見つける。

「ここ?」

信吾が言う。

「写真部って書いてあるんだからそうでしょうよ」

碧ちゃんはそう答えると同時に、扉をノックする。

碧ちゃんの行動力には、ときどき驚かされる。

「はい。あれ?優菜ちゃん?」

出てきたのは、遥先輩。

心臓が跳ねる。

「あ、あの…」

『入部したいんですけど』と続くはずだった言葉は、遥先輩のセリフによって遮られた。

「もしかして…入部希望?」

不登校児の私が登校していることには触れず、あのふんわりとした笑顔で問われる。

何も答えられないでいると、碧ちゃんが「はい。私たち3人、入部希望です」と答えてくれた。

「いいよ。と言っても、部長の一存ってわけじゃないけど、顧問だって入部希望者を邪険にしたりしないと思うし。僕は中田遥。部長だよ」

ふんわりとした笑顔でそう言い、「中にどうぞ」と部室に通される。

部室の中にいる人は2、3人で、軽く会釈をされたので返した。

「優菜ちゃんのことは知ってるんだけど…ふたりの名前は?」

この人は、どこまでも柔らかな人だと思う。

物腰も、表情も、言葉も。

「佐久間碧です」

「あ、優菜の双子の弟になります。本間信吾です」

「佐久間さんに本間くん。うん。本間くんが男の子で助かったかな。優菜ちゃんと混同しない」

そう言って、また柔らかく笑う。

「写真は好きかな?」

部室にあるカメラを漁りながらそう聞く遥先輩。

「あ、私は素人です。カメラは小学校の修学旅行で握ったきりです」

碧ちゃんがそう言うのを聞き、信吾が答える。

「俺はたまに…。カメラは両親が好きだからいくつか家にありますし、必要なら持参します」

「そう…。本間家は家族で写真が好きなんだね。じゃあ佐久間さんにはこれを貸し出すよ」

遥先輩はそう言って、ひとつのカメラを碧ちゃんに差し出した。

「ありがとうございます…」

「この部ではね、好きな被写体を好きなように撮ってもらってるんだ。僕は空。大抵が空かな。優菜ちゃんもだよね?」

急に名前を呼ばれてドキッとしながら「はいっ!」と答える。

「君たちは、まず何を被写体にするか決めてくれるかい?もちろんすぐにとは言わないよ。2年生なんだ。時間はたっぷりある」

そう言って、遥先輩は再びふわふわとした笑顔を見せた。

その日はそれで帰宅することになり、正式な部活動は明日から始めることとなった。






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