あの空を自由に飛べたなら
「私、優菜にしようかな」
入部届を顧問に提出して帰宅する道すがら、突然碧ちゃんが言った。
「え?」
「何を?」
驚いた私の声と、疑問に思った信吾の声が重なる。
「ん?被写体。私、空を撮ってる優菜が好きなんだ。だから、空を撮影してる優菜を撮影しようかなぁって」
そう言って笑う碧ちゃん。
「は、恥ずかしいよっ!」
私が大きな声でそう言うと、信吾が頷きながら碧ちゃんに向き直った。
「いいんじゃない?優菜が被写体で」
「じゃあ決まりだ」
そこまでふたりで決めると、見つめ合って笑っている。
「…信吾は?どうするの?」
「俺?俺は…どうするかな…。優菜みたく空に思い入れがあるわけでもないし、特に撮りたいものがあって入部したわけじゃないし…。まぁ、撮りたいと思った瞬間を逃さないで撮影していこうと思う」
真っ直ぐな視線で言う。
「それ、部長の言ってた"被写体を決める"っていうラインは越えてないわよね?」
碧ちゃんがそう聞くと、バツが悪そうに「いいんだよ」と信吾が返した。
それを聞いて何気なく空を見上げる。
綺麗な夕焼けだ。
私は無意識に、カメラを向けていた。
夕焼けの中に収まる、じゃれ合っている碧ちゃんと信吾を見つめて微笑んだ。
碧ちゃんの恋が上手くいきますように。
きっと、この写真が叶えてくれる。
そう信じて、カメラを鞄の中に納めた。
信吾とは、恋の話なんてしないけど、今度振ってみよう。
ふたりには幸せになってほしい。
そう、強く願った。
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