大野さん 初めてのチュウ
「原のことは、俺がなんとかしておく。っていうか、話しちゃっていいよな。」
「すみません。お願いします。」
「はぁ。。」
 神井くんが深いため息をついた。私もいたたまれない気持ちだけど、怖いのか、申し訳ないのか、自分でもよくわからない。
「俺、明日はそっちを見ながら演技しなきゃいけないのに。全然、出来る気がしない。」
「そんなこと私に言われても。。」
「君はよく平気だな。」
でも、まるで私が全然平気みたいな言い方は心外だ。

「私だって嫌だよ。君を目の前にして、他の人とイチャイチャするなんて。でもしょうがないじゃん。できるなら、今からでも他の人、探して欲しいよ。」
「それは、無理だよな。っていうか、変だよな。。」
「それくらい我慢しろって言われそう。。」
「俺が演出だったら言うな。」
「なんだよ。それ。」

自分のことを棚に上げて、この男は実はかなり自己中だ。
「あぁ。役者全員舞台にあげてやろうとか思うんじゃなかった。くそっ」
空に向かって息を吐くと、そのまま彼は立ち止まっていた。気付くと、随分、距離が離れてしまっていたので、引き返す。
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