虫めづる姫君
胡蝶は母親に似てよく整った愛らしい容姿をしており、すでに嫁にいった四人の姉に比べて、かなりの器量よしである。
頭の回転も早く、才気煥発。
毛虫を愛しすぎているところを除けば立ち居振舞いにも気品があり、
いつか妃として帝に献上したいものだと父大納言は考えているのだ。
「………せめて化粧や眉の手入れ、お歯黒くらいちゃんとしてくれたらなあ」
大納言の嘆きを聞いて、胡蝶は眉を上げた。
「まあ、お父さまったら。お化粧なんて興味ないわ。私、外見なんてどうでもいいんだもの」
むくれて横を向いた胡蝶の顔は、ふつうの貴族の姫君とはかけ離れた容姿をしていた。
成人女性たるもの、素顔でいるなどというのはありえない、というのが世間の常識である。
髪は椿油と櫛で丁寧に手入れをして、長く長く伸ばすもの。
髪が長ければ長いほど、多ければ多いほど美人だからだ。
それにつやが加われば、言うことはない。
洗うだけ洗って、布で拭きもせずに自然乾燥させ、櫛も通さないなど、考えられない。
眉毛は全て抜いて、真っ白に白粉を塗りこめて額の中央に眉墨をつける。
それにより色白の滑らかな肌を強調するのだ。
歯は鉄漿(かね)で黒く染めるもの。
白い歯を見せて笑うなどということは、はしたないこと限りない。
そうやって引き眉とお歯黒をすることで、自分は結婚できる年齢の成熟した女性なのだと男に知らせるのである。
そんなことは、わざわざ教わらなくても女性ならば誰もが知っているほど、当たり前のことだった。
頭の回転も早く、才気煥発。
毛虫を愛しすぎているところを除けば立ち居振舞いにも気品があり、
いつか妃として帝に献上したいものだと父大納言は考えているのだ。
「………せめて化粧や眉の手入れ、お歯黒くらいちゃんとしてくれたらなあ」
大納言の嘆きを聞いて、胡蝶は眉を上げた。
「まあ、お父さまったら。お化粧なんて興味ないわ。私、外見なんてどうでもいいんだもの」
むくれて横を向いた胡蝶の顔は、ふつうの貴族の姫君とはかけ離れた容姿をしていた。
成人女性たるもの、素顔でいるなどというのはありえない、というのが世間の常識である。
髪は椿油と櫛で丁寧に手入れをして、長く長く伸ばすもの。
髪が長ければ長いほど、多ければ多いほど美人だからだ。
それにつやが加われば、言うことはない。
洗うだけ洗って、布で拭きもせずに自然乾燥させ、櫛も通さないなど、考えられない。
眉毛は全て抜いて、真っ白に白粉を塗りこめて額の中央に眉墨をつける。
それにより色白の滑らかな肌を強調するのだ。
歯は鉄漿(かね)で黒く染めるもの。
白い歯を見せて笑うなどということは、はしたないこと限りない。
そうやって引き眉とお歯黒をすることで、自分は結婚できる年齢の成熟した女性なのだと男に知らせるのである。
そんなことは、わざわざ教わらなくても女性ならば誰もが知っているほど、当たり前のことだった。