裏切り者のお姫様 (更新中)
目の前の男は俺の言葉に顔をゆがめて怒鳴り返してくる。できることならこいつの好きなように行動させてやりたいと思う。でも今は駄目だ。俺らにはやらないといけないことがあるのだから。そのために蝶華は存在しているのだから。
…まぁ、あの少女の存在と、楠瀬という女の存在、楠瀬にぞっこんになってしまった族の奴らは想定外ではあったが。
「全部終わらせてから彼女に事情を説明すればいい」
「あの子はやさしいからきっと許してくれるし、理解してくれるだろうし、僕のことも受け入れてくれるだろうね」
「あぁ」
「本当に、あの子のやさしさに付け込んだ最低な考え方だ」
「…あぁ」
目の前の男の言葉に自然と顔がゆがむのを感じた。この男の言うとおりだ。俺たち2人はあの少女が俺らの傍に来てから離れていくまでずっと、彼女のやさしさに付け込み続けた。彼女には『仲間』なんて言いながら、俺らの都合のいいように接してきた。
いや、この男は少し違うか。この男の決断理由の中には、いつも彼女が安全かどうかということがあった。結果としては俺と変わらないが。
「本当に最悪な気分だよ。毎日毎日、『話を聞いて』って訴えるあの子の姿が思い浮かぶし、僕に出会わなければよかったって言ったあの子の表情が頭をよぎる」
目の前の男、大崎涼夜は自分自身をあざ笑うかのような笑みを浮かべながらゆっくりと立ちあがった。そして俺の横を通り過ぎて扉へと向かった。
「本当に…千代ちゃんを仲間になんて、しなければよかった」
そう、ぽつりとこぼしながら。