裏切り者のお姫様 (更新中)
「トオル、その子の手当やってあげて。」
「はいよ〜。チカゲくんは人使いが荒いなぁ。」
あ、てっきりチカゲって人が手当してくれるのかと思ってた。
まぁ彼は彼でさっきから台所で何かしてるし、忙しいのかな。
わざわざ手当するために仕事を止めてしまって申し訳ない…。
それにしてもこの色気を振りまいてそうな人はトオルっていうのか…。
なんか名前まで甘ったるく聞こえてきた…。
気のせいだけど。
「はーい、じゃあ湿布貼って、その上から軽く包帯巻くからちょいと失礼するね〜。」
優しい手つきで左のパーカーの袖を触られるけど、手首より数センチ上まで捲くられたところで私は慌てて彼の手を止めた。
私がわざわざダボッとしたパーカーを四六時中羽織ってるのはあざがあるから。
それは見られて私も良い気分はしないし、見た方もだと思う。
「あぁ、ごめんね?知らない人にあまり上まで捲くられるの嫌だよね〜。無神経でした、ごめんね〜。」
トオルって人は眉を下げて謝ってくれてるけど、謝らくちゃいけないのはむしろこっちだ。
せっかく手当してくれてるのに、さっきの反応はあまりにも失礼じゃないか。
「いや、あの…今のは私が悪いです。すみません、手当してもらってるのに。」
「ははっ。いいの、いいの〜。きにしないきにしない。」
この人、さっきからニコニコしてるけど、目の奥はすごい冷めてる気がするんだよね。
パーカーを捲くられたことよりも、その冷めた目で笑顔を向けてくるのをやめてほしい。
…いや、私の勘違いかもしれないし、あまり失礼なこと考えるのはやめよう。
手当してもらってるし。