相合傘
不意に問いかけられたその言葉で、記憶から現実へと呼び戻される。
「ごめん、ごめん。
なんの話してたんだっけ?」
隣に座っている郁未は授業中ということも忘れて、頬を膨らまし、怒りを露にしている。
まあ、見回したって、真面目に授業を受けてるやつなんか、40人中5人いるかいないかくらいだけど。
「まったくー、ちゃんと聞いててよね」
「ごめんってば。
で、何だっけ?」
「だから、今日遊ぼうって」
…そうだっけ。
郁未に言われても、全然思い出せない。
やっぱり、動揺してんのかな。
「いいよ」
「…それはさっき聞いたし」
郁未はあたしを軽く睨んで言い放つ。
あ、本当に動揺しすぎかも…
「…、ごめん」
「いいけどさー」
郁未はそう言いながらも、あたしを不思議そうに見てくる。
郁未には、言えない。
否、郁未に限らず、誰にも言えない。
「ま、帰りよろしくね」
郁未は機嫌を直し、楽しそうに笑った。
そんないつもと変わらない郁未にあたしは心がなんとなく落ち着いた。
「うん。どこいくの?」
あたしがそう聞けば、郁未は秘密!と言ってニヤッと笑った。