柴犬主任の可愛い人
1・トイプードルだと思います
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終業十五分前に外出させてもらったというのに間に合ってない気配がする!
早く早くと狭いエレベーターの中で私は焦りながら、ようやくその扉が開く。転がり出るみたいにフロアに飛び出すと、同時に、そこには拍手とお祝いの声が響いていた。
一階と地下には飲食店、そこから上は複数の会社が入っているオフィスビル。その中層階に、私が勤める職場がある。たまに降りる階を間違えてしまう私は、今日はやらかさなかったと安堵し、けど、ベストなタイミングに間に合っていないようで臍を噛む。
ダッシュで引き取りに向かった、予約済のオフホワイトがベースの大きな花束を抱えて職場でに滑り込むと、入り口近くにて頭上から抑えた声が降ってきた。
「ありがとうございます。神田さん」
「っ、あっ、いえっ主任。遅れてすみません」
「いいえ、助かりました。僕が行ければ良かったのですが」
「何を仰いますか。主任には、部長を上手く誘導していただかないと」
どうやら戻りの遅い私を待っていてくれたらしたい主任と小さな声で会話しながらオフィスの様子に目をやる。
まだ雰囲気は大丈夫そうだ。どうやら、拍手のあとに何故か部長がまた話し始めていて。
「――神田さん。水上さんに花を渡して下さい」
「えっ、それは部長からじゃ……」
「さあさあ、どうぞ中へ」
背中を押すことはせず目線で拍手の中心へと私を促す主任はなんて紳士的なのだろう。時折おじいちゃんクラスにまで上り詰めるその人畜無害さも相まって癒される。おじいちゃんじゃないのに。
「じゃあ主任も一緒にお願いします」
そうお誘いをして、私たちは円の中心へと足を向けた。
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