柴犬主任の可愛い人
6・狂おしくはない
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それは、直前の会話から逃げるための緊急退避所。けどそれにしてはあまりにも大事な話題だったと……後にもたらされた報告により、背筋が震えた。
「恋人が住んでいるマンション――そこが過去の婚約者との生活を想定して買ったもの――に、例えば一緒に住んでいくことは、女性からしたら嫌ですか?」
「……は?」
もしくはその前段階、遊びにくるのでも抵抗はあるのでしょうか……。突然の質問に、華さんと私は見事なきょとん顔をする。
例によって、伊呂波での夜のこと。
前日の夜、兄から電話があった。この週末こっちに遊びに来るという旨。散らかった部屋を週末にまとめて掃除しようとしてた私が嫌だと言うと、兄は必要ないと口ごたえしてきた。
「柴っちと遊ぶだけだし、柴っちとこ泊まるからお前に用はない。柴っちがさぁ、青葉には連絡しとくようにっていうもんだから。柴っちって真面目だよな。なんて律儀っ」
「はあっっ!?」
馬鹿兄はいったい何をぬかしてるのか、爪の甘皮処理をしながらの片手間会話だったから、思わず聞き流してしまいそうになったけど、とんでもないこと言いやがった。
柴っち柴っちと、まだ続ける兄からの電話を強制終了し、途中だった甘皮処理なんかどうでもいいやと放り出し、ベッドにダイブした。
早く明日になれ。明日になって夜になって、早く柴っち……もとい柴主任に話を訊かなければと思いながら。
だって歩く卑猥物な兄だよっ!! そいつと遊びに行くなんて危険だ。しかもなんか懐かれてるし。一回会ったでけでそんな仲良く遊ぶ約束する関係になってたの!? てか柴っちって何!? 私より距離を詰めるなこの野郎っ。
週末、兄と何をするのか……。そして、私を見舞った初対面の日何処へ行ったのか、そういえばまだ追求してなかったと思い出し、柴主任を伊呂波に召集したのだ。
私から呼び出す初めてが、こんなことに関してなんて泣きたくなるけど……。
こんなことでもないと、連絡なんて出来なかっただろうけど。