柴犬主任の可愛い人
7・上司と部下
 
 
―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


「青葉ちゃんっ!!」


十一月後半、とある休日の朝八時、早朝から営業しているスーパーへ歩いているとき、私を呼び止める声がして振り向けば、華さんがそこにいた。


「ぁ……華さん……」


久しぶりにお会いする華さんは、今日はラフなシャツにスキニーパンツの装いで、細くて長い足が一層際立っていてたまらない。


「久しぶりね。元気にしてた? メールだけじゃわからないもの、そういうのは」


「あっ、はい元気でした。……最近、伊呂波にお伺い出来てなくてすみません」


「会えないのは寂しいけど、お店のことはどうでもいいのよ」


聞けば華さんも、ウォーキングがてらに牛乳を買いに、私の目的地と同じスーパーへ行く途中だったらしい。近辺ではそこでしか売ってないうさぎマークの入った牛乳が真綾ちゃんのお気に入りで、今、それのバーコードを集めるキャンペーン中。抽選で、うさぎのぬいぐるみビッグサイズが当たるという。


「じゃあ私もその牛乳買います。こだわり特にないんで」


「ありがとう。けど飲み過ぎ注意ね」


私のアパートからだと、駅や伊呂波とは反対方向の二十分くらい歩いた先にあるスーパー。ひとりで歩くとその時間は意外と長い。けど、誰かと話しながらだとあっという間だ。卵とトマトとインスタントのお味噌汁、あとは牛乳を買って、華さんと一緒に店を出た。


「これが出てからね、真綾が牛乳飲むようになったのよ。キャンペーン始まったらその二倍」


カルシウム摂取は大切だ。牛乳を飲むようになった真綾ちゃんは、ヨーグルトもチーズも平気になって、彼女の世界は広がった。


「亮は最近グラタンを極め始めるし、柴くんは牛乳プリンをいかにとろとろに作るか凝ってるんですって。真綾のために」


「そ、うなんですか」


「そうなのよ~。また暇になったら伊呂波でもうちでもいいから来てやって。わたしはもう、グラタンもプリンも飽き飽きよ」


だから美味しい珈琲が飲みたいの。華さんはそう言って、道の先にあるカフェへと私を誘ってくれた。


< 123 / 149 >

この作品をシェア

pagetop