柴犬主任の可愛い人
「きっと、華さんたちには心配させないように……それが大きなお世話かもしれないけど……まだ秘密なんだと思います。職場でも部長とかしか知らないみたいです」
「青葉ちゃんは……」
「もちろん聞かされてません。――でも、凄く素敵な人みたいですよ。柴主任、とても嬉しそうにその人のこと話してました。……立ち聞きですけど」
だから大丈夫だと思う。きっと、以前みたいにはならない。
「上手く、いってほしいなと思います。だから……私、柴主任との距離を、少し見直したほうがいいかなって」
「そんなことはないと思うけど」
「私だったら、私が柴主任の相手だったら、嫌です。私みたいなの。嫌な気持ちになります。――そういうのを排除してる段階のくせに、柴主任って優しいから、私をそうはしないかもしれない。いつもいつも、楽しくお酒呑んでて、職場には秘密で、いつもいつも毎回家まで送ってくれるなんてこと……柴主任はどう考えてるか知らないけど、これからの幸せ考えるなら、やめたほうがいい」
あの人は、もう私を気のおけない大事なそういう仲間だと認識してくれているから、きっと、何も考えず今まで通りでいるという予想のほうが大きい。
考えて、ある日突然、もうやめておきましょうと言われるかもしれないけど。
……結局、どちらでも悲しいから、
「だから、私がしっかりしなくちゃ」
私を保つために、自ら境界を作るんだ。
「柴主任のこと、どうしようもないとこもあるけど、嫌いじゃないし、尊敬してます。仲良くしてくれるのは嬉しいけど、このままじゃ、もしかしたら職場での関係も遠慮しなくちゃいけなくなるかもしれない。……それは、良くないです。上司と部下なんです。最初から。ちゃんと柴主任と仕事したいです。ちゃんと、わきまえないと」
嫌いじゃない。これが、華さんに話せる精一杯だ。だから、私の言葉で何かを感じとった華さんにそれを問いかけられようとも、私はまさかといった様子で、それを否定した。
「青葉ちゃんは、それでいいの? 柴くんのこと好きなんじゃないの?」
そう思っていたのだけど。それが叶えばいいとも思っていた。華さんは、私たちをとても微笑ましく見てくれていたのだそう。
「まさか。――頼りになる、大切な上司です」