柴犬主任の可愛い人
8・可愛い人
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二月も半分を過ぎた。
明日から各店舗で始まる婚活イベントの準備にヘルプ要員として駆り出されていた私は、本部には三日半ぶりの出社となる。
店舗を出たお昼過ぎから降り始めた今年最初の雪は、山に積もったものが風に舞ってきてるくらいの量だし問題ないだろうと、傘なしで気楽に構えてたところ、電車移動の間に降雪量は増し、一瞬吹雪いたときが職場までの徒歩の最中だった。おかげで雪まみれだ。
「雪ん子がいるぞっ!!」
職場が入るビルに入ったところで広瀬に呼び止められる。自動ドアをくぐる前に、頭や肩に積もった雪は払ってきたはずだ。僅かに落とせなかった雪が残っていたとしても、もうそれは水に変わって前髪だったりが濡れてるけど、広瀬よ、何故それが雪ん子になるんだ。
「馬鹿広瀬。まずは私に労いの言葉とホットココアを差し出す場面でしょうが、ここは」
「アホ神田。俺だってさっき戻ってきたばっかだ。それよかフードん中に雪溜まってるぞ。水になる前になんとかしてこい」
「なぬっ!?」
そこは考えになかった。職場まで上がってしまうのは時間がかかるからと、近くのカフェやレストランがある一角のトイレに駆け込んでコートを脱ぐと、広瀬の言った通り、ベージュのコートのフード部分には、雪解け水になりかかったものがすでにそこを濡らしていた。お気に入りのコートなのに……新聞紙でも詰めておこう。
コートは肘に掛けトイレから出ると、カフェの前に広瀬がいて手を振っている。焦ることなく近寄ると、さっき私が所望したホットココアを手渡された。
「ありがたく受け取るといい」
「うむ。くるしゅうない」
「アホか」
本日二度目。会って十分以内に二度もアホかと言われたとしても、ホットココアがあるから目を瞑ることにする。テイクアウト用のカップのココアを我慢出来ずに一口飲むと、冷えた身体に循環していくのを細かに感じる。
「それ、柴主任がご馳走してくれた」
「っ」
「お疲れさまだって」
自分のカフェラテもそうだと、広瀬は飲む前にお行儀よく手を合わせた。