柴犬主任の可愛い人
 
 
「じゃあ、これからもこうしましょう」


「へっ?」


部長ネタをまた爆笑してから、いつの間に完食したのか主任はご馳走さまと唱えた。そうして顔をこちらに傾けられる。


「だって、昨日泣きながら言ってたじゃないですか」


「泣きは忘れてもらえると大変助かります」


「嫌ですよ。あんな愉快なこと」


「なっ!!」


愉快で面白くて、馬鹿にしてるのではなく本当に楽しかったのだと、主任は言う。


「神田さんの身に起きたことは、……そりゃあ、正直どう言っていいか分からないところが多いですが」


「ええ。それはそうだと思いますよ」


「神田さんは、僕に纏わる事件を大したことないと言い切りました」


「すっ、すみません。何も私知らないのにっ」


「あっ、いいんですいいんです。――言い切ってもらえてスッキリしたんですよね」


「……」


「被虐趣味ではないのでその目はやめてください……」


「はい」


「そうですね。何と言えばいいのか――、僕のことを知ると、大抵皆どうやっても可哀想な目をするんですよね。僕がもうどんなに大丈夫だと言っても」


「わりと凄いことだと思いますよ。私だって」


「ですよね。当時はなかなか大変でした」


そう話す主任は、傍目には本当に大丈夫に見える。私が人の機微に疎いだけかもしれないけど。


店長さんの頭上にある本日のオススメを見上げながらの主任を見て、人は思い出す行為の際、俯く人と宙を見る人、だったっけな、に別れるんだとテレビの情報を記憶から手繰った。見つめる方向に何か診断結果とかあったのかな。覚えてないけど。でも、上を向くのは良いことなりと勝手に結論づける。


「いい加減その反応にも飽きてきてたんですよね。だから神田さんの言い切りはとても新鮮で爽快でして――まあ、タイミングもあるんでしょうが」


「私、ナイスタイミング?」


「ははっ。はいそうですね。気にしすぎていたらしい部分の指摘も助かりました」


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