柴犬主任の可愛い人
「昨夜のそんなこんなは、僕なりにとても有り難かったことなんですよね」
そうして話は、『これからもこうしましょう』に戻る。
「神田さんは、僕と同じように慰めはいらないかもしれない」
「は……い」
「けれど、本当はそれが欲しいかもしれない」
「……」
「僕は分からなくて、そんな状況で下手な言葉は言わないでおきます。ですが、神田さんが昨日泣きながら言っていたものの中で、お手伝いできることはしたいなあ、と」
「泣きは……」
忘れません、と主任は優しくない。
「ここ、伊呂波が気に入ってくれて僕は嬉しいです。メニューを沢山食べられないと嘆く姿は可愛かったですよ。誰にもここを教えたくないというのは頷けますね。とりあえず、社の人間には開放したくない。だから――」
こうしましょう、とようやくその提案はなされた。
「気に入ったのなら、これからも伊呂波に来てやってください。僕がいて落ち着かないようであれば、そのへんは考慮します」
「それは、大丈夫です」
「良かった。――そうして、沢山色んなものを食べたくて堪らなくなったら、僕と半分こしましょう。合理的だと考えていただければ」
他にも、自分に可能な範囲でなら、昨日の泣き以外でも力になりますよと、主任は得にもならないことを連ねていく。それは昨日の私への感謝だと。……上司に失礼吐いてと怯えてたというのに。
「泣きを見てしまいましたからね。神田さんの悲しいことも、偶然ですが知っては、何か力になれたら、とか、おこがましくも思ってしまうくらいには放っておけない、神田さんは良い仕事仲間です」
「雨の日の捨て犬感覚……?」
「違います。神田さんは可愛らしい女の子です。犬なら僕だ」
全く答えになってないけど、主任の提案は私にはちょうどの優しさだった。
ほわりほわりと、心が温まる。干し芋一袋だけじゃ足りないな。これは。