柴犬主任の可愛い人
「……主任は、私がいてもいいんですか? 社の人間……」
「神田さんなら大歓迎です。神田さんはここで知り合った飲み仲間のような感じです」
「半分こ、いいですね。美味しいものいっぱい食べたいです。……これが部長だったら足が遠のくとこでした。主任で良かった」
「それは良かった」
「……」
「どうしました?」
あ、なんか目頭が熱い。
私が、
私が求めてたものがここにあるっ。
「お……お兄ちゃんだ……」
「えっ……」
「私の理想とする兄像が主任にピタリと重なってます!! 本物のセクハラ兄貴と交換希望ですね切実にっ!! ――ああ……お兄ちゃんと代わってほしい」
とりあえず、現実の兄はどうしようもない。こうだったらと思い描く理想像は偶然にも今日、主任に当てはまる。
感極まり兄と慕う私に、主任は堪えきれずに笑い出した。どうやら、昨夜からの私の行動は、心配する部分を除けば笑いのツボばかりで我慢の限界だったらしく。……それはなによりだ。当初のカッコつけた目的は達成だ。
「かっ……神田さんは意外に面白すぎていいですねっ」
「そうですか」
「物怖じせず色々言ってくれるし、話はすぐ脱線して逸れたままだし、卑怯っぽいこと考えてるわりには……っ、ははっ、苦しいお腹痛い……、っ卑怯に堪えきれずに懺悔してくるし最高ですっ。食に貪欲なのもいい。もりもり食べなさい」
「卑怯度合いが笑いの前後でレベルアップしちゃってます」
「今日、神田さんは絶対にすっごく申し訳ない様子で伊呂波に来ると思って、僕はそれを見るためにわくわくしながら来ちゃいましたよ。全然気にすることではないのに」
「……」
ずっと、昨日から楽しいのだと屈託なく笑う主任は、理想の兄像首位から瞬く間に陥落していった。
なんだろうか。意外に腹は立たない。物珍しいんだと思う。いつも職場で朗らかだけど、爆笑する主任には初対面で面食らった。わりと酷い言い草にもビックリだ。