柴犬主任の可愛い人
元カレにプロポーズされ、まだ破棄をされてなかった半年ほど前、結婚する予定の人と一緒に挨拶のため帰省する。だからゴールデンウィークは家にいて、と両親や兄夫婦にお願いした。皆フットワークが軽いため、早めの対策をしておいたのだ。
対策は仇となり、それは叶わぬ夢となる。私がなかなか事実を言い出せないまま……両親たちは、ゴールデンウィーク直前に残念な報せを受けることとなった。
婚約破棄の理由を訊かれるのは間違いない。加えて連休を潰された文句を絶対言われるっ!! ――恐ろしくて、ひとりでなど帰省出来るはずもなかった。気まずくて皆に合わす顔がなかったのもあるけど。
そうして私のゴールデンウィークは、部屋の掃除や、ハードディスクがパンク寸前の蓄積された録画物の消化に費やされた。
余談、として――、
深夜に偶然観たバレーボールのアニメに嵌まり、翌日駅前の古本屋で原作コミックを大人買いしたところ、現場を柴主任に目撃され、何かを言われる前に逃走した。……だってその顔は、私のことをからかおうといった笑みで満ちてたのだ。てかなんでそんなとこで会っちゃうのか。
そんなゴールデンウィークを過ぎて三ヶ月。お盆では冷却期間がまだ足りない。ほとぼりが冷めてはいない、と思う。主に婚約破棄のほう。それに、お盆なんて親類一同が揃い踏む中だ。両親と兄夫婦しか知らなかったとしても、どの会話の流れから私のそれを口にしてしまうか分かったもんじゃない。
だからまだ帰れないかな~帰りたくないな~、と亮さんにおどけてみたところ、大変申し訳ないといった表情を返される。亮さんの口は魚が餌を食べるようにぱくぱくと動くものの、そこから音は発せられなかった。
亮さん以外の三人が見守る中、亮さんの一重の中の黒目がぎょろぎょろと忙しない。視線が宙をさ迷うのは、やっちまったと後悔中なんだろう。
私が弁解しようものならパニックを増長させるだけかもしれないと 、白和えに手を付けた一分後のことだった。その言葉は。
「突然だが、青葉ちゃん」