柴犬主任の可愛い人
「でも、真綾が楽しみにしててな」
真綾ちゃんとは、亮さんと華さんの娘さん三歳である。
「キャンプとかで作って食べるカレーが大好きで、カレンダーに印つけて毎日眺めてるんだよ。もちろん肉も焼く」
「なるほどなるほど。――でも、私もご一緒していいんですか?」
噂の美幼女に会えるのは嬉しいけど、一家団欒の邪魔にならないかな。でも楽しそうだから行ってみたい。などと考えを巡らせてると、どうやら一家だけじゃあなかった。
「シバケンも行くから……」
「えっ、主任もっ?」
「……なんで休日まで上司の顔見なきゃいけねえんだよ、っていうのなら無理強いはしない。――いや、寧ろ、そうなら今回はシバケン不参加でもいいな」
「酷い……亮ちゃん」
「あっ、あれっ? 主任いつからそんな遠くに席移ったんですかっ。あっ、私は主任がいらっしゃっても構わないです。寧ろいないほうがメンバーの繋がりが途切れます」
「そうか? そうなのか?」
最初がどうであれ、気にする仲ではもうないだろうと亮さんから言ってもらえるのはとても嬉しかった。そういえば以前華さんが私に対して、亮さんがこうやって懐くのは多くないのだと言っていた。懐く……って表現でいいのかは分からないけど。うん。仲良くしてもらえて嬉しい。
コの字のカウンター。中心より右に隣り合って座ってたはずの今日。いつの間にかそこから一番遠い左端に移動していた柴主任。どうやら、会話に入れてもらえず拗ねての移動だったらしい。そういえば誰も構ってなかった。
職場では、伊呂波で会うようになる前と変わらない態度で接してはくれるけど、拗ねが続いて明日暗い顔で出社されても面倒だからと、私は必死にバーベキュー参加を懇願する。
「そうだっ!! お肉は私に任せて下さいっ。兄のお嫁さんの実家、肉屋さんなんです。柴主任の好きな部位はなんですか?」
「イチボ」
「……」
大人げない主任に再度訊ねるとスペアリブとの返答があり、その場で兄嫁によく味の染み込んだ一品を電話でお願いした。