柴犬主任の可愛い人
 
 
「亮ちゃんはね、ああいうの黙々とやりたいんだ」


見ると、鼻歌混じりに三つほどの作業を同時進行する亮さんがいて、納得する。するけど……。


「でも、手伝うことくらい訊いたほうが」


「それ、もう何年か前にウザいって怒られたんだ。それからは遊んでいようって。だよね、支倉」


「そうそう。妻が行っても邪魔だっていうのよ。もう放っとくことにしたの」


華さんもそうだそうだと、もう諦めたふうに柴主任に同調した。主任は華さんを旧姓で未だ呼ぶ。多分死ぬまでそうだと互いに笑ってた。二人は、真綾ちゃんと透き通った川底を楽しんでいて、振り向けば亮さんの手際は滞りなく。


まだ、亮さんに邪魔だと怒られるのは怖いしなあ。


「了解です。華さんを信じて遊びまーす」


存外楽しいことに流されやすい性分なため、水遊び用にと持ってきたサンダルに履きなおして、水深のもう少し深いところまで行ってみた。流れるプールよりも冷たくて気持ちいい。真夏の流れるプールは本当に芋洗いで、各々流されるままじゃなく好き勝手に動くから、遥か昔、私はいつも家族とはぐれ浮遊してた。


「ま、真綾ちゃん。これで遊ばない?」


テンション上がって買ってしまった箱眼鏡。秘密道具を出すBGM付きで真綾ちゃんに差し出してみたけど、あからさまに逃げられてしまう。……うぅ。先にこの箱眼鏡の面白さをプレゼンしてから誘うべきだったか。


真綾ちゃんは、苦笑いする華さんとぶぶぶと吹き出し笑う柴主任に手繋ぎブランコをねだって行ってしまった。ちょっと寂しい。


寂しく独り秘密道具で水中を覗くことにした。元々綺麗な川だけど、水流の筋を省いた凪いだ水中世界は緑の色素がふんだんな、何分見てても飽きのこない世界で。




遠くから私を呼ぶ柴主任の声がした。


随分そこにいたのか、ふくらはぎまでしか浸かってないというのに、私の身体は冷え冷えとしてて。川で冷やした西瓜の美味しさを身を以て実感し、お肉が焼けたカレーが出来たと騒がしいところまで身体を震わせながら走った。


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