柴犬主任の可愛い人
 
 
――……


パーカーだけ替えを忘れてきたから、大きな岩に重石を置いて乾かす。気温が体温を上回ってる外気にさらされては、帰る前には乾いてるはずだし、一度やってみたかったんだ。私は時折、それをテントの屋根の下で多少なりとも日焼け回避しながら、時折所在を確認する。片手では川の方をスマホで動画撮影しながら。けど、それは機械の熱量が上限に達したため強制終了となってしまった。


「ああっ、シャッターチャンスがっ!!」


ちょっと他事に目をやってたものだから俊敏に反応出来ず、再度撮影の設定が上手くいかない。そうしてシャッターチャンスは逃された。川では、亮さんたち一家が戯れていて、三人が大笑いした瞬間がハイライトだったのに。


何度か操作しても繰り返される強制終了に、そういえばスマホの温度が下がるまでは無理だったとようやく思い至る。


「僕が撮ってるから大丈夫ですよ」


「っ!? ……そのビデオカメラは、真綾ちゃん撮影専用機として自ら購入したものですか?」


「まさか」


「だったらちょっと度が過ぎてます。主任」


「酷い……違うと訴えているのに」


そういえば亮さんたちのところにもいなかったなと、少し日に焼けて赤らんだ顔の主任を見上げた。


「日焼け止め貸しましょうか」


「いえ。ちょっと焼きたい気分でいます」


健康的な肌色になりたくて――柴主任はそう言い、私と同じくらいの肌色で、ネイビーのポロシャツの袖を肩まで無理矢理捲っていた。憎い。私なんか、日焼け止めとかしないとすぐ真っ黒になるのに主任は焼けにくい体質だ。先日の社のバーベキューの際に言っていた。


テントの下、直射日光の当たらない場所、私の隣に主任も腰を下ろす。その真っ赤な首の後ろを見て、きっと焼きたい気分だった己を後日後悔するんだろうなと想像した。皮が剥けてひりひりして痒くなってしまえばいい。


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