柴犬主任の可愛い人
 
 
主任の持つビデオカメラは華さんから借りたもので、家族で遊んでるところを頼まれて撮っているのだという経緯を聞き、ようやく柴主任幼女撮影コレクション所持疑惑の容疑は晴れた。


「亮ちゃんたち店があるしあんまり遊びにも行けてないから、三人の思い出はここぞと残しておかなければ」


それが指名なのだと、柴主任は胸を張る。


「そうですか」


「神田さんも映してあげましょう」


「いっ、いいですっ。私そういうの苦手……」


「そういえば、この前のバーベキューでも逃げ回ってましたね」


職場のほうのだ。当日、柴主任は記録係をしていて、汗だくで皆の写真を撮って回ってお疲れさまだった。私はそんな記録係から逃げ回ってた。レンズを向けられると顔の筋肉が硬直して面妖な顔面になってしまう。


ていうか、映像は川で遊ぶ一家でも、この状態じゃ音声は私たちの会話だよね。指摘すると、柴主任は抜かりなく少し前から一旦停止にしていたようだった。今日も今日とて汗を纏うものだから、使ってなかったタオルとクーラーボックスから冷えた麦茶を渡した。


「ありがとうございます」


「いえ。ペットボトルの麦茶に私の労力はありません」


可愛くない返事に、柴主任は製造工場のある方角に礼をしてから蓋を開けた。


職場では、相変わらず頼れる人なのは変わらない。けどなぜだろう。プライベートのだらだらする柴主任に対してだとこうなってしまう。




「神田さん、今日は楽しかったですか?」


時刻は午後四時、なのにまだ太陽は高い位置。片付けは終わってて、撤収は何時とは決めてないけどそろそろな時間かもしれない。


「楽しいです。この前のバーベキューが地獄だったから余計に」


街中に期間限定で開設されたバーベキュー会場は、曇りだったけどそよぐ風はなく、涼やかな川もなくて、客を受け入れ過ぎてぎゅうぎゅうだった。


それに、しつこく声をかけてくる男性社員がいて余計に疲れた。それを助けてくれたのは、柴主任だった。


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